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富山地方裁判所 昭和38年(行モ)1号 決定 1963年3月15日

申請人 勝山秀夫

被申請人 新湊市長

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請人は「被申請人が昭和三十八年一月二十九日申請人所有の電話加入権新湊局四、二一〇番についてなした公売処分の効力を、本案判決あるまで、これを停止する。」との裁判を求め、その申請の理由とするところは、右公売処分はその公売公告等の手続に違法の点があり、無効であるから、申請人は被申請人を被告として、昭和三十八年二月四日右公売処分無効確認の訴を富山地方裁判所に提起したが、申請人は肩書住所地で、各地の取引先を相手として漆器類製造販売業を営むものであり、電話がなければ営業を継続することは到底不可能であつて、本案判決の確定までに償うことのできない損害を蒙るので、本申請に及ぶというにある。

よつて按ずるに、申請人が被申請人を被告として本件公売処分の無効確認を求めるため、昭和三十八年二月四日当裁判所に対し訴を提起し、当庁昭和三十八年(行)第一号公売処分無効確認請求事件として係属中であることは、当裁判所に明かである。ところで、行政事件訴訟法第二十五条第二項により行政処分の効力もしくは執行の停止を求めるには、適法な本案訴訟の提起を要すべきところ、申請人の右本案訴訟は、その訴状によれば、要するに、被申請人は申請人の滞納した市税の滞納処分として、昭和三十七年三月十六日申請人の電話加入権新湊局四、二一〇番を差押え、ついで同三十八年一月十七日参加差押えして、同三十八年一月二十九日公売を執行し、同日落札人[糸白]山太次郎に七万二千円で売却決定をなし、翌二月二日右電話加入権の譲渡手続は完了したが、右公売処分をなすに当つてなされた公売公告等の手続に違法な点があり、かかる違法な手続によつてなされた公売処分は畢竟無効なものであるから、これが無効確認を求めるというにある。しかしながら、行政庁を相手方として行政処分の無効確認訴訟を提起し得るのは、無効とする当該行政処分又はそれに続く処分により損害を受けるおそれのある者が、無効とする当該行政処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴訟によつて目的を達することができない場合にのみ限られ(行政事件訴訟法第三十六条)、申請人及び被申請人指定代理人荒木政一各審尋の結果によるも、本件公売処分は既に終了して、本件電話加入権は申請外[糸白]山太次郎に権利が移転し、その続行処分というものは考えられないことが明らかであるから、申請人主張のごとき場合は、本件公売処分の無効を前提として、現在の加入名義人である右[糸白]山太次郎を相手方として訴を提起し、右電話加入権につき権利確認、加入名義変更等を求めれば足り、本件公売処分の無効確認を求めることは許されず、従つて、申請人の前記本案訴訟は不適法なものといわなければならない。

してみれば、申請人のかかる不適法な本案訴訟の提起を前提とする本申請は許されるべきものでないから、これを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 吉田誠吾 中川臣朗 鬼頭忠明)

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